職場でネガティブな感情に触れたら? 共感力を活かした建設的な向き合い方
職場で避けて通れないネガティブな感情への向き合い方
職場で働いていると、自分自身または周囲の人が、プロジェクトの遅延、難しい課題、人間関係の摩擦などから、落ち込み、不安、不満、時には怒りといったネガティブな感情を抱く場面に遭遇することは少なくありません。こうした状況で、どのように対応すれば良いか戸惑ってしまう方もいらっしゃるかもしれません。
特に、論理的な思考が重視される環境では、感情的な側面にどうアプローチすれば良いか分かりにくいと感じることもあるでしょう。しかし、こうしたネガティブな感情に適切に向き合うことは、チーム内の信頼関係を維持し、問題を建設的に解決していく上で非常に重要です。
この記事では、職場でネガティブな感情に触れた際に、共感力をどのように活かせば良いのか、その基本的な考え方と具体的な向き合い方について解説します。
なぜ職場でネガティブな感情への共感が難しいのか
多くの人が、職場でネガティブな感情に触れた際に難しさを感じる理由がいくつかあります。
- 感情そのものへの苦手意識: 感情的な反応は非論理的と感じたり、どう扱えば良いか分からなかったりする場合。
- 問題解決への焦り: ネガティブな状態を早く解消しようとして、相手の感情に寄り添う前に解決策を提示してしまう。
- 自身の感情への影響への懸念: 相手のネガティブな感情に引きずられて、自分まで落ち込んでしまうことを恐れる。
- 適切な反応が分からない: どのような言葉をかけ、どのような態度をとるのが適切か判断できない。
こうした理由から、相手のネガティブな感情から距離を置いたり、表面的な励ましに留めたりすることがあります。しかし、共感的な姿勢を示すことは、相手にとって大きな支えとなり、状況改善の一歩につながる可能性があります。
ネガティブな感情への共感がもたらすメリット
職場でネガティブな感情に対し共感的に向き合うことは、以下のようなメリットをもたらします。
- 信頼関係の強化: 相手は「自分の気持ちを理解してもらえた」と感じ、安心感や信頼感を深めます。
- 問題の本質理解: 感情の背景にある原因や課題に気づきやすくなり、より効果的な対策を立てるヒントが得られます。
- 孤立感の軽減: ネガティブな感情を抱える人が孤立せず、サポートされていると感じることで、前向きな姿勢を取り戻しやすくなります。
- 建設的な対話の促進: 感情が落ち着くことで、冷静に状況を分析し、解決に向けた対話が可能になります。
単に問題解決を図るだけでなく、感情的な側面にも配慮することで、より健全で生産的な職場環境を築くことができるのです。
ネガティブな感情への共感的な向き合い方:基本的なステップ
ネガティブな感情に触れた際に共感的に向き合うための基本的なステップをご紹介します。
ステップ1:相手の感情に気づき、受け入れる姿勢を示す
まず、相手が何らかのネガティブな感情を抱いている可能性に気づくことが第一歩です。表情、声のトーン、普段と違う様子などから変化を感じ取ります。
そして、その感情を「良い・悪い」と判断せず、相手がそう感じているという事実として受け止める姿勢を持つことが重要です。「〇〇さんは今、〇〇と感じているのだな」と心の中で認識します。
ステップ2:非難しない傾聴を心がける
相手が話し始めたら、途中で話を遮ったり、評価したりせず、注意深く耳を傾けます。ただ聴くことに集中し、「なぜそう感じるのか」という理由や、「その感情によって何が起きているのか」に耳を澄ませます。
批判的な態度や、「そんなことで落ち込むなんて」といった否定的な言葉は避けてください。相手が安心して感情を表現できるような空間を提供します。
ステップ3:感情を言葉にして確認する
相手の話を聴きながら、感じ取った感情を言葉にして相手に返してみます。これは、自分の理解が合っているかを確認し、相手に「聴いてもらえている」と感じてもらうための有効な方法です。
例えば、
- 「それは大変でしたね。少しお辛かったのですね」
- 「〇〇について、不安を感じていらっしゃるのですね」
- 「その出来事に対して、不満があるということでしょうか」
といったように、相手の言葉や状況から推測される感情を穏やかな言葉で伝えます。この際、断定的な言い方ではなく、「〜なのですね」「〜でしょうか」と問いかけるような形にすると、もし自分の理解が違っていても相手が訂正しやすくなります。
ステップ4:安易な解決策の提示を控える
ネガティブな感情に直面すると、「なんとかしてあげたい」「早く解決したい」という気持ちから、すぐにアドバイスや解決策を提示したくなることがあります。しかし、多くの場合はまず「感情を受け止めてほしい」というニーズがあります。
解決策を求めるサインがある場合を除き、まずは相手の感情に寄り添うことを優先してください。共感は同意や承認とは異なります。相手の感情を理解しようとする姿勢を示すことが目的であり、その感情が正当であるか、その状況を自分がどう思うかは別の問題です。
シチュエーション別の共感的向き合い方例
いくつかの具体的なシチュエーションを想定し、共感的な向き合い方の例を考えてみます。
例1:プロジェクトの遅延で落ち込んでいる同僚
- 状況: 担当していた部分で遅延が発生し、責任を感じて落ち込んでいる同僚がいる。
- 共感的アプローチ:
- 「〇〇さん、大変だったね。今回の件、かなりプレッシャーを感じているんじゃないかな」
- 「何かできることがあれば言ってね。一人で抱え込まずに、少し話を聴かせてもらうことならできるよ」
- 避けるべき対応:
- 「落ち込んでいても仕方ないよ、次に切り替えよう!」(感情の否定)
- 「〇〇がダメだったんだよ」(非難や原因追及)
例2:上司からのフィードバックに不満を感じている部下
- 状況: 上司からの評価やフィードバックに納得がいかず、不満を漏らしている部下がいる。
- 共感的アプローチ:
- 「〇〇さんの話、聴かせてもらえるかな。フィードバックの内容について、少し腑に落ちない点があったということなのですね」
- 「その評価を聞いて、頑張ってきたことが認められなかったと感じて、残念な気持ちになった、ということでしょうか」
- 避けるべき対応:
- 「上司の言うことは聞くしかないよ」(一方的な意見の押し付け)
- 「〇〇さんのここが足りなかったんじゃないの?」(非難)
例3:理不尽な要求に怒っている先輩
- 状況: 取引先や他部署からの無理な要求に対して、怒りや憤りを感じている先輩がいる。
- 共感的アプローチ:
- 「〇〇さん、かなりご立腹のようですね。今回の件で、とても納得がいかないというお気持ちなのですね」
- 「〇〇さんが感じていらっしゃる怒り、お察しします。それは大変な状況ですね」
- 避けるべき対応:
- 「まあまあ、落ち着いてください」(感情の抑制要求)
- 「その要求は仕方ないんじゃないですか?」(感情の否定、状況の正当化)
これらの例のように、まずは相手の感情そのものを否定せず、受け止める姿勢を示し、言葉にして確認することが共感の第一歩となります。
健全な共感のために:注意点
ネガティブな感情への共感は重要ですが、自分自身を守ることも忘れてはなりません。
- 境界線を意識する: 相手の感情に深く入り込みすぎず、自分と相手は異なる存在であるという境界線を意識することが大切です。相手の感情に「巻き込まれる」のではなく、「寄り添う」という感覚を持ちます。
- 自己のケア: 相手のネガティブな感情に触れることは、知らず知らずのうちに自身のエネルギーを消耗させる可能性があります。共感的な関わりの後には、意識的に気分転換を図るなど、自身の心のケアを心がけてください。
- すべての感情に同意する必要はない: 共感は相手の感情を理解しようとすることであり、その感情やその感情を生んだ状況に同意することではありません。理解しようとする姿勢と、自身の意見や立場は区別して構いません。
まとめ
職場でネガティブな感情に触れることは避けられない場面ですが、共感力を活かすことで、それを人間関係を深め、問題を解決する機会に変えることができます。
ネガティブな感情への共感は、まず相手の感情に気づき、受け入れる姿勢を持ち、非難せず傾聴し、感情を言葉にして確認することから始まります。そして、安易な解決策の提示を控えることで、相手は安心感を得て、信頼関係が築かれます。
すべての感情に深く入り込む必要はありませんし、自分自身を消耗させないための健全な境界線も大切です。しかし、少し意識を変え、共感的なアプローチを試みることで、職場の人間関係はより円滑になり、問題解決も前向きに進む可能性が高まります。
まずは身近な場面で、相手の感情に耳を傾け、「〇〇と感じているのですね」と優しく言葉を返すことから始めてみてはいかがでしょうか。