混同しがちな「共感」と「同意」:違いを理解してコミュニケーションを円滑にする
共感力は、良好な人間関係を築く上で非常に重要なスキルです。しかし、この「共感」という言葉は、しばしば「同意」と混同されることがあります。特に、論理的に物事を考える傾向がある方や、感情の機微を捉えるのが苦手だと感じる方にとって、この二つの違いを明確に理解することは、コミュニケーションにおける誤解を防ぎ、より深いレベルでの繋がりを築くための第一歩となります。
この記事では、共感と同意のそれぞれの意味を明らかにし、両者の決定的な違いについて解説します。この違いを理解することで、あなたのコミュニケーションはさらに洗練され、職場の同僚や友人との関係がより円滑になるでしょう。
共感とは何か?
共感とは、相手の感情や考え、経験を、まるで自分のことのように感じ、理解しようとすることです。相手の立場に立ち、その人の内面的な世界を想像するプロセスと言えます。
共感のポイントは以下の通りです。
- 相手の視点に立つこと: 相手が「どのように感じているか」「なぜそう考えているのか」を理解しようと努めます。
- 感情や状況の「理解」に焦点を当てること: 相手の経験していることに対して、感情的な側面を含めて寄り添います。
- 必ずしも賛成や同意を伴わないこと: 相手の意見や感情を「理解する」ことと、それに「賛成する」ことは全く別のことです。たとえ相手の意見に反対であっても、その感情や背景には共感することができます。
例えば、友人が仕事の失敗で落ち込んでいるとします。このとき、その友人の落ち込んでいる気持ち、失敗によって感じているであろう不安や後悔を想像し、「それは大変だったね」「辛かったでしょう」と感じるのが共感です。この共感は、失敗の原因や今後の対策について、あなたが友人の考えに賛成するかどうかとは関係ありません。
同意とは何か?
一方、同意とは、相手の意見、考え、提案などに対して、自分が「その通りだと思う」「賛成する」「正しいと認める」ことです。
同意のポイントは以下の通りです。
- 自分の意見や考えが相手と一致すること: 相手の主張や提案に対して、肯定的な判断を下します。
- 内容の「肯定」に焦点を当てること: 相手の言っていること、行っていることそのものに対して、正しい、良い、受け入れられるという判断を下します。
- 感情や背景の理解は必ずしも含まないこと: 相手の意見に同意する際に、その意見に至った経緯や感情を深く理解しているとは限りません。単に内容の是非で一致している状態です。
上記の例で言えば、友人が失敗の原因について「自分の準備不足だった」と述べた際に、「そうだね、確かに準備が足りなかったかもしれない」と、その分析に賛成するのが同意です。これは友人の落ち込んでいる気持ちへの共感とは異なります。
共感と同意の明確な違い
共感と同意の最も重要な違いは、「焦点」と「目的」にあります。
| 要素 | 共感 (Empathy) | 同意 (Agreement) | | :------- | :---------------------------------- | :-------------------------------------- | | 焦点 | 相手の感情、経験、視点、内面世界 | 相手の意見、主張、提案、事実認識 | | 目的 | 相手を理解し、心理的な繋がりを築く | 意見や認識の一致を確認する、物事を決定する | | 関係性| 相手の感情や状況を「理解」すること | 相手の意見や内容を「肯定」すること | | 必要性| 相手の意見に賛成する必要はない | 相手の意見に賛成する必要がある |
簡単に言えば、共感は「あなたの気持ちを理解しようとしています」という姿勢であり、同意は「あなたの言っていることに賛成です」という意思表示です。
なぜ共感と同意を区別する必要があるのか?
この二つを混同すると、コミュニケーションにおいていくつかの問題が生じやすくなります。
- 相手に誤解を与える: 相手が感情を話しているのに、「それは間違っている」「〜すべきだったね」と同意・不同意の立場で返答すると、相手は「自分の気持ちを分かってもらえなかった」と感じ、心を開くのをやめてしまう可能性があります。
- 信頼関係の構築を阻害する: 相手は共感を求めているのに同意や評価を返されると、「この人は自分の話を聞いてくれない」「味方ではない」と感じるかもしれません。
- 建設的な対話が難しくなる: 意見が異なる相手に対し、まず共感を示すことなく頭ごなしに不同意を表明すると、相手は感情的に反発し、論理的な議論に入るのが難しくなります。
- 自分自身が疲弊する: 全てに同意する必要はないのに、「共感=同意」と思い込むと、相手のネガティブな意見や行動にまで同意しなければならないと感じ、精神的に消耗してしまうことがあります。
特に、意見が対立する場面や、相手が感情的になっている場面では、まず相手の感情や立場に共感を示すことが、その後の対話をスムーズに進める鍵となります。同意はできなくても、「あなたはそう感じているのですね」「そういう考えがあるのですね」と、相手の存在や感情を一旦受け止める(共感する)ことから始めるのです。
コミュニケーションで実践するポイント
共感と同意を区別し、共感力を発揮するためには、以下の点を意識してみてください。
- まず「聞く」に徹する: 相手が話している間は、評価や判断を保留し、相手の言葉の裏にある感情や意図に注意を向けます。
- 同意できない場合でも共感を示すフレーズを使う: 「〜ということですね」「〜な気持ちなのですね」など、相手の言葉や感情を反復したり、言い換えたりして、理解しようとしている姿勢を示します。例:「プレゼンがうまくいかなくて、落ち込んでいるのですね」「締め切りが前倒しになって、大変だと感じているのですね」
- 「それは正しい」「それは間違っている」といった評価・判断を急がない: まずは相手の状況や感情を「理解すること」に集中します。
- 自分の意見や反論は「共感の後」に伝える: もし同意できない場合や別の意見がある場合でも、一度共感を示してから、「私はこのように考えました」と自分の意見を伝えるようにすると、相手は耳を傾けやすくなります。
まとめ
「共感」と「同意」は似ているようで全く異なるものです。共感は相手の感情や立場を理解しようとすること、同意は相手の意見や考えに賛成することです。
この違いを正しく理解し、特に相手の感情や困難な状況に対しては、まず同意できるかどうかに関わらず「共感」の姿勢を示すことが、人間関係における不要な摩擦を減らし、信頼関係を築く上で非常に有効です。
日々のコミュニケーションの中で、「今、相手は共感を求めているのか、それとも同意や解決策を求めているのか?」と少し立ち止まって考える癖をつけるだけでも、あなたのコミュニケーションは大きく変わるはずです。共感力を高める第一歩として、この「共感と同意の区別」を意識してみてください。