ITエンジニアが共感力を活かすには:専門用語を分かりやすく伝える実践テクニック
共感力は、人間関係を円滑にし、チームでの協力を促進する上で非常に重要なソーシャルスキルです。特にITエンジニアの世界では、専門性の高い技術や概念を、必ずしも同じ知識を持たない関係者(例:営業担当者、企画担当者、他部署のエンジニア、顧客など)に伝える場面が多くあります。このような状況で共感力を発揮することは、情報の正確な伝達だけでなく、信頼関係の構築やプロジェクトのスムーズな進行に不可欠となります。
ITエンジニアのコミュニケーションにおける共感力の重要性
ITエンジニアは、日々新しい技術や複雑なシステム構造と向き合っています。その中で当然のように使用する専門用語や略語も少なくありません。しかし、これらの言葉が相手にとって未知のものである場合、コミュニケーションは行き詰まってしまいます。
ここで共感力が役立ちます。共感力とは、単に相手の感情に寄り添うだけでなく、相手の立場や状況、考え方、そして持っている知識レベルを理解しようとする能力でもあります。ITエンジニアがこの共感力を活用することで、相手がどの程度技術的な知識を持っているか、どのような点に関心があるか、何が理解できていないかを推測し、それに合わせて情報の伝え方を調整できるようになります。
技術的に正確であることは重要ですが、それと同じくらい、その正確な情報が相手に正しく理解されることも重要です。共感力は、この「理解される」ための橋渡しとなります。
専門用語を「翻訳」するための共感テクニック
技術的な内容や専門用語を分かりやすく伝えるためには、以下の共感テクニックが有効です。
- 相手の視点に立つ: 自分が当たり前に使っている言葉が、相手にはどう聞こえるかを想像します。相手の業務内容や役割から、どの程度の技術知識が期待できるかを推測することも有効です。例えば、営業担当者であれば、技術的な仕組みより、それがもたらすビジネス上のメリットや顧客への影響に関心がある可能性が高いと推測できます。
- 「相手にとっての当たり前」を理解する: 自分にとっての常識や当たり前が、相手にとっては全くそうではないという認識を持つことが大切です。相手の「当たり前」は何か、相手が普段どのような言葉を使っているかを観察し、理解しようと努めます。
- 相手の非言語サインを観察する: 話している最中の相手の表情や視線、うなずきの頻度、体の向きなどを観察します。これらの非言語サインは、相手が内容を理解できているか、興味を持っているか、退屈しているかなどのヒントを与えてくれます。「難しいな」「よく分からないな」といったサインを見落とさないように意識します。
実践!分かりやすく伝えるための共感ステップ
これらのテクニックを踏まえ、技術的な内容を分かりやすく伝えるための具体的なステップをいくつかご紹介します。
- ステップ1:相手の背景を把握・推測する 話す前に、可能であれば相手の部署、役割、過去の経験などを確認したり、推測したりします。これにより、相手がどのレベルの技術知識を持っているか、何に関心を持つ可能性が高いか、おおよその見当をつけることができます。
- ステップ2:専門用語を使わない、あるいは補足する 相手が知らない可能性のある専門用語は、できる限り日常的な言葉に置き換えます。もしどうしても使う必要がある場合は、その都度、平易な言葉で補足説明を加えます。「〇〇とは、簡単に言うと〜のことです」のように伝えます。
- ステップ3:抽象的な概念を具体化する システム構成図のような抽象的な図や概念図を用いる際は、それが現実世界の何に対応するのか、どのような流れで情報が処理されるのかなど、具体的な例え話や身近な事柄に結びつけて説明します。図やイラストは文字情報よりも直感的に理解されやすいため、積極的に活用を検討します。
- ステップ4:一方的な説明にならないように確認を入れる 自分のペースで一方的に話し続けるのではなく、適度に相手の理解度を確認します。「ここまで大丈夫でしょうか?」「今お話しした〇〇について、何かご不明な点はありますか?」といった問いかけを挟むことで、相手が質問しやすい雰囲気を作り、誤解が生じていないかを確認できます。
- ステップ5:相手の関心事に結びつける 伝えている技術や機能が、相手の業務にどう役立つのか、どのようなメリットをもたらすのかを具体的に説明します。相手の「自分ごと」として捉えてもらうことで、関心を持って話を聞いてもらいやすくなります。
シチュエーション別:共感力を活かしたコミュニケーション例
- 仕様の説明: 技術的な内部構造の詳細を羅列するのではなく、「この機能を使うと、ユーザーは〇〇が簡単にできるようになります」「この変更によって、今まで△△にかかっていた時間が半分になります」のように、それが相手や利用者に何をもたらすかに焦点を当てて説明します。
- エラーや課題の報告: 単にエラーコードや技術的な原因を伝えるだけでなく、「現在のシステムの状態は△△であり、これにより〇〇の機能が一時的に使えなくなっています」「この問題の解決には、概ね□□時間を見込んでおり、復旧後には改めてご報告します」のように、発生しているビジネスへの影響や今後の対応を明確に伝えます。相手が一番知りたいのは、技術的な原因よりも、それが業務にどう影響するか、いつ解決するのか、といった点であることが多いです。
- 他チーム・他部署との連携: 他部署の担当者に何かを依頼する際、単に技術的な要求を伝えるだけでなく、「〇〇チームの皆様が現在抱えている△△という課題に対して、私たちの技術がどのように貢献できるかと考え、この機能改修をご提案します」のように、相手の立場や目標を理解し、それに配慮した形で話を切り出します。
まとめ
ITエンジニアのコミュニケーションにおいて、共感力は技術的な内容を効果的に伝えるための強力なツールとなります。相手の知識レベルや関心事を理解しようと努め、専門用語を避けたり、分かりやすい言葉で補足したり、具体的な例え話や図解を用いたりすることで、メッセージはより明確に、そして相手に響く形で伝わります。
共感力を意識したコミュニケーションは、誤解を減らし、協力関係を築き、ひいてはプロジェクト全体の成功に貢献します。日々のやり取りの中で、少しずつこれらの実践テクニックを取り入れていくことをお勧めします。