共感力を活かす質問術:相手の「言いたいこと」を引き出す具体的な方法
導入:なぜ相手の「言いたいこと」を引き出すことが重要なのか
日々のコミュニケーションにおいて、「相手が本当に伝えたいことは何だろう」「なぜか話が噛み合わない」と感じることは少なくありません。特に職場では、プロジェクトの意図を共有したり、同僚の状況を正確に把握したりすることが、円滑な業務遂行や良好な人間関係構築に不可欠です。
相手の「言いたいこと」、つまり言葉の裏にある真意や感情、未言語化の考えを理解することは、共感力の重要な側面です。そして、それを引き出すための効果的なツールが「質問」です。単に情報を尋ねるだけでなく、相手への関心と理解を示す共感的な質問は、コミュニケーションの質を飛躍的に向上させます。
本記事では、共感力を活かして相手の「言いたいこと」を引き出すための質問術について、その重要性や具体的な方法、実践のコツを解説します。
共感的な質問とは何か
共感的な質問とは、単に事実や情報を得るための尋ねる行為を超え、相手の感情、視点、価値観を理解しようとする姿勢を示す質問です。これは、問いかけを通じて相手に関心を持ち、尊重していることを伝え、話し手が安心して内面を語れる環境を作ることを目指します。
重要なのは、質問そのものだけでなく、質問の「意図」と「姿勢」です。共感的な質問は、相手を詰問したり、自分の考えを押し付けたりするためのものではありません。相手の世界を少しでも共有したい、その視点から物事を見てみたいという純粋な関心から生まれるべきものです。
なぜ共感的な質問がコミュニケーションに有効なのか
共感的な質問がコミュニケーションを円滑にし、相手の本音や深い考えを引き出す上で有効な理由はいくつかあります。
- 信頼関係の構築: 相手は自分の話に真剣に耳を傾け、理解しようとしてくれていると感じることで、安心感を覚え、話し手に対する信頼を深めます。
- 情報の深化: 表層的な事実だけでなく、その背景にある動機、感情、懸念なども引き出しやすくなります。これにより、問題の本質や相手のニーズをより正確に把握できます。
- 誤解の防止: こちらの理解が正しいかを確認する質問を挟むことで、認識のズレを防ぎ、誤解が生じるリスクを減らすことができます。
- 相手の思考の整理を促す: 質問に答える過程で、相手自身も自分の考えや感情を整理することができます。これにより、新たな気づきが生まれたり、次に取るべき行動が明確になったりすることもあります。
- 主体性の尊重: 答えを一方的に与えるのではなく、質問を通じて相手自身に語ってもらうことで、相手の主体性を尊重する姿勢を示すことができます。
共感的な質問の実践方法:具体的な質問例
共感的な質問は、いくつかのタイプに分けられます。状況に応じてこれらの質問を組み合わせることで、より効果的に相手の「言いたいこと」を引き出すことが可能です。
1. 開かれた質問
「はい」「いいえ」で答えられない質問で、相手に自由に語ってもらうことを促します。具体的な状況や考え、感情を引き出すのに役立ちます。
- 例:
- 「この件について、あなたはどのように感じていますか?」
- 「そのプロジェクトで特に難しさを感じている点はどんなことでしょうか?」
- 「具体的にどのような状況だったか、もう少し詳しく教えていただけますか?」
- 「今後、どのように進めていきたいと考えていますか?」
2. 感情に焦点を当てる質問
相手の感情や気持ちに寄り添い、それを言葉にしてもらうよう促す質問です。特に相手が悩んでいたり、複雑な状況に置かれていたりする場合に有効です。
- 例:
- 「その時、あなたはどんなお気持ちでしたか?」
- 「〜ということですね。それは大変でしたね、どのようなお気持ちでしたか?」
- 「この状況について、今はどのように感じていますか?」
3. 言い換え・要約による確認質問
相手の話を自分の言葉で言い換えたり、要約したりして、「こういう理解で合っていますか?」と確認する質問です。相手は理解されていると感じ、さらに詳しく話すきっかけになります。また、こちらの誤解を防ぐためにも重要です。
- 例:
- 「つまり、〇〇ということについて懸念されている、という理解で合っていますか?」
- 「△△さんがおっしゃるには、□□という状況で、主に〜な点に課題を感じている、ということでしょうか?」
- 「まとめると、課題はAとBの二つがあり、特にBについて解決策を見つけたい、ということですね?」
4. 沈黙を恐れない
質問をした後、相手が考えるための「沈黙」を与えることも共感的な聞き方の一部です。すぐに次の質問を重ねたり、自分が話し始めたりせず、相手が言葉を選ぶのを待つ忍耐力が求められます。沈黙は、相手がより深い考えや感情にアクセスするための貴重な時間です。
職場の具体的なシチュエーションでの活用
これらの質問術は、職場の様々な場面で活用できます。
-
プロジェクトの進捗確認:
- 「このタスクの進捗状況について、今どのような段階ですか?」(開かれた質問)
- 「何か手詰まりを感じている点はありますか?具体的にどのような状況でしょうか?」(開かれた質問)
- 「その点について、少し不安を感じていますか?」(感情に焦点を当てる質問)
- 「〇〇さんがおっしゃるには、この課題への対応に△△な障壁がある、ということですね?」(言い換え・要約)
-
同僚や部下の相談に乗る:
- 「最近、何か気になることや困っていることはありますか?」(開かれた質問)
- 「その状況について、あなたはどのように感じていますか?」(感情に焦点を当てる質問)
- 「つまり、あなたが一番心配しているのは□□な点なのですね?」(言い換え・要約)
- 「(相手が考え込んでいるとき)慌てなくて大丈夫ですよ。ゆっくり整理してみてください。」(沈黙の許容)
-
新しい提案やアイデアについて話す:
- 「この提案について、率直にどのような第一印象を持たれましたか?」(開かれた質問、感情に焦点)
- 「このアイデアのどのような点に特に興味を持たれましたか?あるいは懸念点はありますか?」(開かれた質問)
- 「私が理解したところでは、あなたの懸念は△△な部分にあるということですね?」(言い換え・要約)
実践のコツ
共感的な質問は、意識的な練習によって向上します。
- 相手の話に注意深く耳を傾ける: 質問をする前に、まずは相手の話を最後まで聞き、その内容を理解しようと努めることが出発点です。
- 好奇心を持つ: 相手の考えや感情に対する純粋な好奇心を持つことが、自然で効果的な質問につながります。
- タイミングを見計らう: 相手が話し終えたタイミングや、特定の話題について深く掘り下げたいと感じたときに質問を挟みます。
- 誠実な態度で臨む: 形だけの質問ではなく、本当に相手を理解したいという誠実な気持ちで接することが、相手の心を開く鍵となります。
- フィードバックを求める: 自分がどのような質問をすれば相手が話しやすいか、周囲の人にフィードバックを求めることも有効です。
まとめ
共感力を活かした質問術は、相手の表面的な言葉だけでなく、その裏にある「言いたいこと」や真意を理解するために非常に有効なスキルです。開かれた質問、感情に焦点を当てる質問、言い換え・要約による確認質問などを適切に使い分けることで、相手との信頼関係を深め、コミュニケーションの質を高めることができます。
これらの質問術は、日々の意識と実践によって誰でも身につけることが可能です。今日から、目の前の相手に「あなたは何を感じ、何を考えているのだろう」という共感的な関心を持って耳を傾け、適切な質問を投げかけてみることから始めてみてはいかがでしょうか。それはきっと、あなたの人間関係をより豊かにし、職場のコミュニケーションを円滑にする一助となるはずです。